変異株を知るうえで、そもそも、この新型コロナウイルスSARS-CoV-2が、ヒト細胞にどのように侵入するのかのメカニズムが重要だと知った。そのキーワードがいくつかある。
◆スパイクタンパク質
理化学研究所が2021年2月18日に発表している「新型コロナウイルス感染の分子機構を解明-医薬品の分子設計に貢献する「富岳」による新しい知見-」には、ウイルスがヒト細胞に心中する際にスパイクタンパク質の表面を修飾している糖鎖が重要な役割を果たしていることをスーパーコンピュータ「富岳」によるシミュレーションを行って発見したとあります。(詳細はhttps://www.riken.jp/press/2021/20210218_2/index.htmlを
参照お願いします)
そもそも新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)には、2種類の構造が存在し、RBDがヒト細胞表面のACE2受容体に結合して感染する際は一方の構造をとっていることが知られています。新型コロナウイルスがヒト細胞に侵入する初期段階では、ウイルスの表面に存在するタンパク質(スパイクタンパク質)がヒト細胞表面のアンジオテンシン変換酵素II(ACE2受容体)に結合して吸着し、ウイルスが侵入することで感染に至ります。
スパイクタンパク質は3本のポリペプチド鎖から構成され、各ポリペプチド鎖はN端ドメイン(NTD)、受容体結合ドメイン(RBD)、S2ドメインから構成されます。
生化学実験により、スパイクタンパク質表面の多くのアミノ酸が、糖鎖によって修飾されていることも分かってきました。スパイクタンパク質に限らず、多くのタンパク質の表面は翻訳後修飾によって糖鎖が付加されており、タンパク質がお互いを認識する際にその糖鎖が用いられていると考えられています。
また、ウイルスの場合は、抗体による攻撃から逃れるためにスパイクタンパク質が糖鎖で覆われているともいわれています。
(注:理化学研究所の記事にはNTD,RBD,S2の3つのドメインから構成されているとある、過去の他の論文ではS1、S2のドメインと書いてあるものもあった、研究が進んでいるようです。
スパイクタンパク質とヒト細胞受容体との結合が感染メカニズムであるとすると、それを阻害することが予防、治療薬の開発につながることになります。)
そして、変異株とは例えば、スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)のアミノ酸配列501番目のアスパラギン(N)がチロシン(Y)に置き換わった(N501Yと記載される)を含むいくつかの変異がみられるものをいいます。変異株には、イギリス変異株、南アフリカ変異株、ブラジル変異株、そして最近ではフィリピン変異株があります。
◆ヒト細胞受容体
アンジオテンシン変換酵素II(ACE2受容体)はヒトの細胞膜に存在する膜タンパク質の一つで、心臓、肺、腎臓などの臓器や、舌などの口腔内粘膜に発現しています。ACE2は本来、血圧を調整する役割を担っており、生理活性ペプチドホルモンであるアンジオテンシンIIと結合してアンジオテンシン(1-7)を生成する酵素ですが、コロナウイルスのスパイクタンパク質と結合してウイルス感染の入り口にもなってしまいます。
◆中和抗体
ウイルスに感染した患者は体内の免疫機構が働き、抗体と呼ばれる防御因子が作られるよう になります。抗体は病原体の色々な場所に結合することで、ウイルスの活動を阻害し、排除す る方向に働きます。その中でもウイルスの活性に重要な部位に結合してその機能を阻害し、ウ イルスを不活性化する能力を有する抗体は「中和抗体」と呼ばれます。SARS-CoV-2 において は、ウイルス表面の Spike タンパク質に結合し、ACE2 との結合を防ぐことで中和抗体は効果 を発揮します。以上は以下の資料から抜粋しました。
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2021/2/18/210218-1.pdf
中和抗体は、ヒトの生体反応でつくられるはずですが、上記の資料ではそれを人工的に作り、重症化する患者を減らそうとする試みです。この抗体が実用化されれば、ワクチンで感染リスクを下げ、中和抗体による治療薬で重症化を防げることになりそうです。
コロナウイルス感染を阻害することは、今の人間社会の活動において困難です。したがって早くこのような治療薬ができることを期待したいです。